■私が「打ち込みの音が好きだ」と言うと「ピコピコw」と多くの人が笑った。しかしM-AGEの音を聴かせてみると...
彼らの顔からは薄ら笑いが消え、目をパチパチしながら
「え、なにコレ?バンドにDJがいるの!?」
何じゃコリャ凄ぇ!!という反応がたくさん返ってきた。
1994年の頃のことである。
当時、世間ではヴィジュアル系バンドの大ブームが巻き起こっていた。
その中で、局所的にチラホラと目立つテクノ勢が数名いる。
そのテクノ勢の筆頭が電気グルーブだった。
ヴィジュアル系志向の人たちにとって、テクノとは要するに電気グルーブみたいな奴らのことだった。
そして電気グルーブとは『ギャグみたいな歌詞をマイクで叫びながら、被り物をしたり着ぐるみを着たり全裸になってはしゃぎまくったりするような奴』だと思われていた。
黒服を着て耽美を追求するヴィジュアル系とは真逆の存在である。
ゆえに、ヴィジュアル系志向の人たちの多くは、テクノ的なシンセサイザーの打ち込みの音を出す奴=どうせ電気グルーブみたいな奴、という発想から「ピコピコw」という蔑称をもって打ち込みの音を否定していた。
■余談
誤解のないように言っておくが、私は電気グルーブのファンでもあった。
アシッドテクノポップの金字塔『Vitamin』
引っ越しで大半のCDを売ってしまったが、アシッドテクノに歌メロを付けて、尚且つポップに仕上げるという偉業を成し遂げたVitaminだけは売ることができなかった。
また、ヴィジュアル系に偏見がある訳でもない。
ジャンルを厳密に括って音楽を聴いている訳ではないので、もしかしたらズレているかもしれないが、BUCK-TICK、SOFT BALLET、hide with Spread Beaverなどはヴィジュアル系の範疇に入るのではないかと個人的には思っている。
それぞれお気に入りの一枚
紫パッケージのCDは、回収騒ぎとなったBUCK-TICKの『Six/Nine』。
■ギターロック+テクノサウンド+DJスクラッチ
さて、余談が長くなったがM-AGEの話に戻ろう。
そんな訳で、打ち込みの音=ピコピコw、と条件反射のように言っていた人が、当時はたくさんいたのだ。
しかし、そんな彼らもM-AGEの曲を聴くと、そのほとんどが黙るのである。
確かにシンセの音がピコピコ鳴ってるけど、ギターの音もしっかり鳴ってる。
と言うか、曲の全体的な雰囲気はほぼほぼ生バンドだ。
にも関わらず、普通ならギターソロが聴こえるべきところでDJスクラッチが聴こえてきたりする。
サンプリングされた素材としてのスクラッチ音ではなく、ターンテーブルを擦って実演奏された本物のスクラッチ音だ。
ライブハウスが拠点のヴィジュアル系の人たちにとって、当時のクラブは全くの別世界だった。
そして、DJとは夜な夜なクラブのダンスフロアに熱狂の渦を巻き起こす『バンド系の自分にはよくわからないけど、なんかヘッドフォンをしてカッコよくレコードを擦ってる夜系のオシャレな人』という認識であった。
だからこそ「え、なにコレ?バンドにDJがいるの!?」と言って目をパチパチさせるのだ。
それでも、曲中の電子音だけを取り沙汰して「ピコピコw」と言う人も少しはいたが、M-AGEのメンバーが全員、とくに殊更な厚化粧をしてる訳でもないのに、グウの音も出ないほどのイケメンである事を知ると、やっぱり押し黙るのであった。
当時、打ち込みの音はこのぐらい偏見を持たれていたのである。
■時代の異端児
よく引き合いに出されるイギリスのJesus Jonesもそうだが、ギターロックとテクノサウンドを融合させたバンドはそれまでにもそれなりに存在していた。
しかし、そこにさらにDJスクラッチを積極的にミックスしたバンドは、私の知る限り他に誰もいなかった。(インターネットも無い1994年の当時、もしそんなバンドを知っている人がいたら、それは相当コアなアンテナを張っていた通な人だったろうと思う)
サンプリングされたスクラッチ音ではなく、実演奏された本物のスクラッチ音を、ギターロックとテクノサウンドに融合させ、それを違和感なくさらりと聴かせてしまう。
さらりと聴かせることができたのは、作っている側に絶妙なバランス感覚があったからだ。
当時、同じ事をやれるバンドが他に出てこなかったのは、センス、技術、知識、リソース、そしてこのバランス感覚を持ったバンドが他に無かったからだ。
M-AGEは、まさに時代の異端児だったのである。
■そして2021年、現代
私がM-AGEに俄然興味を持ったのは1994年。
最初に買ったアルバムは『INTERFACE』。
『STARSHELL -CASPAR POUND REMIX OF M-AGE-』が発売される直前の頃のことだった。
後から知る事になったのだが、私が『INTERFACE』を買った時には、実はすでにM-AGEは解散していた。
こんなに凄いバンドの動向をリアルタイムで体験することができなくて、当時の私は心底残念に思ったものだ。
先日発売されたベストアルバム『RE:CONSTRUCTION 1991-1994』
だからこそ、今回の再結成は本当に嬉しく思った。
現在ではメンバーにDJを擁するバンドも、世間で普通に目にするようになってきた。
世界的な有名どころではLinkin ParkやLimp Bizkitなど。
国内でもMAN WITH A MISSIONやDragon Ashなどが、スクラッチを行うメンバーをバンド内に擁している。
ギターロック+テクノサウンド+DJスクラッチの図式は、現代ではすでにM-AGEだけのアドバンテージではなくなってしまったのだ。
ならば、M-AGEはここからどのような音を出して来るのか?
完全新作のニューアルバムの完成を、心から楽しみに待っていようと思う。
答えはそこで聴けるハズだ。
RE:CONSTRUCTION 1991-1994のトレーラームービー
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